ユニットには内包する固有のエネルギーがある。

~JBLはシステム設計において、バランスをとても重視していることをお伝えしておきたい~

 前回はコンプレッションドライバーの話を書いた。コンプレッションドライバーについて書いたなら、その続きは切っても切れない関係にあるホーンの話になるのがスジだと思う。スジだと思うが、これまで私がここで記してきたことを振り返ると、あまりにも大音量とかハイパワーとか、そういった方面に偏りすぎているような気がしないでもない。これでは、JBLのスピーカーは大音量のことばかりを考えているような論調ではないのかと少し反省する。仮に私自身がそんなふうに思われても一向にかまわないが、JBLのスピーカーシステムがそのように思われるのは遺憾である。したがって今回は、ホーンの話には行きません。

 4インチ径ボイスコイルを持つ15インチウーファーや4インチ径ダイアフラムを持つコンプレッションドライバーを限界まで鳴らしてみたらどうなるか。たぶん、というか絶対に、そのときは聴いている人のほうが壊れます。告白すれば、私、限界のかなり手前で壊れそうになったことがあります。まあ野外のような広い場所はともかくとして、家庭内ではしたがって、これらのユニットの限界性能を見極めることは不可能でありましょう。そしてJBLのスピーカーユニットの場合、それが3インチであろうが2インチであろうが、家庭内では充分な性能を持っているということを、これまでの話の流れ上、あらためて言っておきたい。常識のある方ならそんなことはとっくにご承知のことだとは思うのだけれど。

初期のモニターModel 4310
初期のモニターModel 4310

 4310シリーズという、超ロングセラーの人気モデルがJBLにはある。あれは12インチウーファーをベースとした(ホーンを使用しない)オール・ダイレクトラジエーター・ユニット構成であることがひとつの特徴だ。初代4310は、1960年代レコーディングスタジオを席巻していたアルテックの15インチ同軸ユニット、604デュプレックスを標的として開発された。これはマーキュリー・レーベルで奇跡的なオーケストラ録音をやってのけたレコーディング・エンジニア、ロバート・ファインの要請によるものだったいうが……604よりもはるかにコンパクトにまとめられた4310や4311は、多くのスタジオに受け入れられ、JBLスタジオモニター・シリーズの発展の礎となったモデルと言ってよいだろう。そのコンシューマー・ヴァージョンとみなせる、L100センチュリーといったモデルともども、大ヒットとなったのだった。

  4310シリーズ(最新の現行モデルは4312Eだ)は多くの方が一度はその音を聴いたことがあるだろう。サウンドの特徴を一言で言えば、鳴りっぷりのよさということに尽きる。くどいようだが、ここには4インチ・ボイスコイルもコンプレションドライバーも搭載されていない。それでいて家屋の中であれば十二分なエネルギーを気持ちよく放射してくれる。それは何故か。

シリーズ最新モデルのModel 4312E
シリーズ最新モデルのModel 4312E

 私はいま、気持ちよく、と書いた。いくらスピーカーユニットにエネルギーがあっても、それが気持ちよさにつながるとは限らない。いやむしろ、エネルギーの大きなユニットでは、やかましいだけになってしまう事態のほうが、もしかしたら多いかもしれない。何が言いたいのかと言えば……。

 4310シリーズの成功の鍵は、3つのユニットのバランス、それもエネルギーのバランスがよく取れていることにあると私は考えている。もしここに、例えばミッドレンジに4インチ・コンプレッションドライバーを持ってきたとしたらと考えてみていただきたい。いくら最強のスピーカーユニットとはいえ、それでは肝心なトータルサウンドはどうなってしまうのか。残念ながら実践したことはないが、たぶん、というか絶対に、中域だけが突出した非常にバランスの悪い音になってしまうだろう。たとえ周波数特性的に、ミッドレンジをアッテネーションして、ウーファーやトゥイーターとの音圧に揃えたところで、バランスの悪さは解消されないはずだ。

 ユニットには内包する固有のエネルギーがあるというのが私の意見であるが、マルチウェイ・システムをまとめあげる上でもっとも重要なことのひとつが、このユニットのエネルギーバランスを初めからある程度揃えておくという点にあるのではないだろうか。その意味で、コーン型ウーファー、コーン型ミッドレンジ、ドーム型(コーン型もあった)トゥイーターからなる4310シリーズは、ユニット形式の点からも磁気回路やボイスコイル径の規模からも、非常にバランスのよいシステム構成となっており、それが多くのユーザーに受け入れられた要因だと言えまいか。強力なユニットをつくり上げたとしても、それをうまくシステムとしてバランスさせなければ、最終的によいサウンドは得られないわけで、何が何でも4インチでなければ、というものではないということを、今回はぜひ言っておきたかったのである。

15インチウーファー搭載のS4700
15インチウーファー搭載のS4700

 昨年(2011年)の秋に登場したS4700スピーカーシステムの資料を見ていたとき、私はアッと小さく驚いた。S4700は、15インチウーファーとコンプレッションドライバーを組み合せた3ウェイシステムだが、中域のドライバーのダイアフラム径は2インチである。そして、新開発のウーファーのボイスコイル径は、JBLでは珍しい3インチで、私はそこで得心したものだった。むろん、数字や形式だけで判断すべきことではないことは肝に銘じているし、開発者の本当の意図はわからないのだが、私は勝手に、3インチと2インチの組合せだったらエネルギーのバランスは好ましいのではないかと推測し、試聴の結果もその通りであったことにささやかな喜びを感じた。

 いささか強引に話をまとめれば、JBLのユニット設計がハイパワーを指向していることは間違ないだろうし、それが非常に大きな魅力になっているのであるが、システム設計においては用途を踏まえ、バランスをとても重視していることをお伝えしておきたい。