あらゆるスピーカーユニット形式の中で、コンプレッションドライバーは『最強』だ。

~その音には他のユニット形式からは絶対に得られない、強烈な魅力がある~

 コンプレッションドライバーのダイアフラムを手に取ってご覧になられたことがあるだろうか? あれは、ドーム型ユニットの振動板をちょうど引っくり返した形でドライバーの中に収まっている。ドームユニットの特徴のひとつは、ダイアフラムの外径がほぼそのままボイスコイル径になるところにあるのだけれど……、JBLの傑作コンプレッションドライバー「375」のスペアダイアフラムが何故か手元にあるのだが、375のダイアフラム径は4インチ(10センチ)とされているのに対し、ボイスコイル径もぴったり10センチであることを、今回私はノギスで実測して実感した。中域を再生するスピーカーユニットとして、これはおそるべき大口径ボイスコイルであり、前回までの話を引きずると、すなわち駆動力と耐入力が高いということになる。(余談だが、コーン型トゥイーターが廃れた一因は、ボイスコイル径が大きくできず飛びやすかったからだと思われる。同じ振動板口径ならドーム型ユニットのほうが耐入力を高めやすいのだ。音質的にはコーン型トゥイーターにも大変な魅力があると私は思っているが。)

 あらゆるスピーカーユニット形式の中で、コンプレッションドライバーは「最強」だと私は思うが、その理由のひとつがいま述べたダイアフラム/ボイスコイル比にある。だがそれはドーム型ユニットとて同様だ。ではどこが違うのか。私は、コンプレッションドライバーとドーム型ユニットの決定的な違いは、空気の制動の差であると理解している。

375コンプレッションドライバーの断面構造
375コンプレッションドライバーの断面構造

 コンプレッションドライバーの振動板のくぼみの前方には、フェイズプラグ(イコライザー)というものが設けられ、音の放射口径がダイアフラム径より小さく絞り込まれることになる。375の場合で言えば、4インチのダイアフラムに対して、フェイズプラグ、そしてその先のスロートと呼ばれる音道を通った放射口径は2インチ、つまり半分になる。そしてこの2インチの開口がホーンにつながるわけであるが、4インチダイアフラム/2インチスロート(喉)という呼び方は、皆さんご存知のように、このことを意味しているのである。ダイアフラムの後ろ側(ドームの凸側)のバックチャンバーの容積も、コンプレッションドライバーは、だいたいがギリギリの大きさまで小さくされている。

 つまり、コンプレッションドライバーでは、振動板前面の音はフェイズプラグでぎゅっといったん圧縮(コンプレス)され、後方の音もまた、小さな部屋に閉じ込められるのである。ダイアフラムにいかに空気の制動をかけるか、私はエンジニアではないから本当のところはわからないけれども、それがコンプレッションドライバー設計のキモであるように考えているし、このことが「最強」であることの秘密のように思われるのだ。

 空気の制動をかけると何が起こるのか。感覚的に申し上げれば、極めて敏感に振動板が反応するようになる(と思う)。逆の言い方をすれば、空気制動をかけることで、ダイアフラムは、肝心なその前方の空気を非常に効率的に動かすことができるようになるのである。ここで手のひらを前後に動かしてみよう。まったくフリーな空間におけるその行為は、虚しく空をきるのみだが、例えば小さな箱の中に手を突っ込んで動かしてみれば、己が空気を動かしているのが実感できるはずだ。このたとえが科学的に正しいかどうかは保証できないけれど、つまりはたぶんそういうことなのだ。そしてさらに一種の圧縮を行なうことで、効率はいっそう高くなっていくのである。

 以上の結果、コンプレッションドライバーは、効率が極めてよい=能率が高く、敏感で、大音量でもまったくへこたれないという最強のユニットとなったのだ。

 「スピーカーユニットの振動板は、できるかぎりフリーに動くほうがよい」という考え方もある。現代のユニットは、例えばダイアフラムの背面の空気をスムーズに抜いていることを高らかに謳うことがあるように、近代の設計手法はその方向を向いている。また、ダイアフラム前面にフェイズプラグのような「障害物」があることを単純に悪だと決めつける人もいないではない。それには一理あると私も同意しよう。しかしである。コンプレッションドライバーにだって、ここまで書いてきたように一理あるのだ。なによりその音には他のユニット形式からは絶対に得られない、強烈な魅力があるではないか。それからここだけの話。フェイズプラグを取り去ったホーンドライバー、あるいは、バックカバーを外したコンプレッションドライバーの音を私は聴いたことがあるけれども、そのサウンドは、タメが効かず、そして浸透力のない、私にはとても魅力的とは思えないものだった。そのとき私は、空気制動の偉大さを思い知ったのだ。

 よいスピーカーとは空気と仲良くできるものと私は心得る。音とは空気の疎密波に他ならず、したがって空気を「上手に」動かしてくれるユニットであることが、よい音に通じる道ではないのか。その点で、コンプレションドライバーは誠によくできていると思わざるを得ない。そして私の個人的な意見としては、空気と上手くやってくれさえすれば、障害物があろうがなかろうが、コーンだろうがドームだろうが、フリーであろうが制動がかかっていようが、一向にかまわない。各帯域や用途によるさまざまな都合によってさまざまな形式を使い分ければよいだけの話。そもそもスピーカーシステムのような一筋縄ではいかない厄介なシロモノを、単純に理屈や形式で優劣をつけるのには強い違和感を覚える。

 コンプレッションドライバーは、先にちょっと触れたように、現代スピーカー設計の主流とは言い難い。そのなかでJBL(のみ)が、われわれオーディオファイルに向けて、いまも堂々とコンプレッションドライバーを搭載した最高級システムをつくり続けてくれているのは心強い限りである。「375」の系譜も、「376」「475」を経て、「476」として現代に脈々と受け継がれているのである。

New EVEREST DD67000に搭載されている 476Beコンプレッションドライバーと分解写真
New EVEREST DD67000に搭載されている 476Beコンプレッションドライバーと分解写真