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JBLが聴ける店・Sound of JBL | 岩手県・釜石市 Town hall

JBLが聴ける店・Sound of JBL

岩手県・釜石市

Town hall

釜石の夜に流れる
あの頃と同じ「4508」サウンド

JBLが聴ける店・Town hall

三陸地方を代表する老舗ジャズバー。

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【上】音が漏れる建物の都合上、夜は音量を抑えている。大きい音量でジャズを楽しみたいのなら、夕方までのカフェタイムがおすすめだ。【中】店内のラックには4500枚にものぼるジャズの名盤が収められている。海外レーベルのCDも用意している。【下】ブースはガラス張りのオールドスタイル。目でもジャズを楽しむことができる。

全国的に名高いジャズ喫茶やジャズバーを擁する岩手県。それらを巡る旅も人気を集めており、三陸地方にまで足を延ばすジャズファンも多い。その際の目的地に真っ先にあげられるのが、釜石の「Town hall(タウンホール)」だ。

 創業は1980年。35年以上に渡り三陸地方を代表するジャズバーとして名を馳せてきた。ただ、「岩手にはもっと上がいますからね」とマスターの金野克人氏。いまでは老舗ジャズバーのひとつに数えられる「Town hall」だが、「若い頃は先輩方にいろいろな意味でかわいがってもらいました」と目を細める。

「東京の大学を卒業してすぐ地元の釜石に戻って、融資してくれる銀行を探してこの店を始めたんですが、ちょうどその年に『岩手にカウント・ベイシーを呼ぼう』という動きがあって"岩手ジャズ喫茶連盟"が結成されたんです。そこに入れてもらったんですが、最初はかなり怖かったですね。まわりは威圧感のある年上の人ばかりでしたから(笑)」

 その恐怖感は、根は優しい先輩方の人柄に触れてすぐに解消されたが、一人前として認められるまでは少し時間がかかったという。

「最初の2年ぐらいはテストの連続でした。会う度に『あのレコードは聴いたか?』って、感想を聞かれるんです。そこで的外れなことを言ったら『ダメだな』『何もわかってないな』って呆れられるんですよ。逆に的確なことを言うと『若いのによく知ってるな』って褒めてもらえたりでね」

 しかし、先輩方のレクチャーは固定観念を押し付けるような堅苦しいものではなかった。レコードの聴き方については厳しかったが、さまざまな面で各々の考えを尊重してくれた。オーディオ機器の選定に関しても同様だ。

「いまもいろんなことを尋ねますが、『これがいい』とか『こうした方がいい』といったことは言わないんです。『きちんと聴けるなら何でもいいんだぞ』ってね。深く突っ込んだ質問をすれば答えてくれるけど、結局のところは『自分が気に入っているならそれでいいんじゃないか』ってところに落ち着くんです」

 そのため、若い頃から金野氏は自分で考えてオーディオ機器をセレクトしてきた。いい音を鳴らすためには、自身で勉強をするしかなかったのだ。

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【上】38cmダブルウーハーの「4508」を軸に構成した「Town hall」のスピーカーシステム。低域音、中域音、高域音をバランスよく組み合わせている。【下】流す曲はその日の店の雰囲気と客の好みに合わせて金野氏がセレクトしている。リクエストも可能だ。

試行錯誤を繰り返し、
完成したスピーカーシステム。

 釜石に戻りジャズバーを始めた金野氏がまず驚いたのが、レベルが高い岩手のジャズ喫茶の音だった。

「大学時代に東京のジャズ喫茶を巡っていましたけど、漫然と聴いていただけだったんですよね。だから店を始めたばかりの頃はうまく鳴らせなくて、音を鳴らす難しさを知ってから岩手の名店の音を聴いてびっくりしたんです。どうすればあんな音が出せるのか、全然わからなかった。本を読んだり資料を集めたり、知識を深めることから始めましたね」

 オーディオ関連の雑誌も読み込んだ。好みが合う評論家の意見を参考にしたり、評論家が絶賛するアイテムの裏の裏まで理由を推測したり、人とは違う角度からも知識を深めていった。

「うまく鳴らせるようになったのは10年以上経ってからです。使っているアイテムの傾向を掴みながら構成を変えていく中で、『この音だな』って思える瞬間があったんです。次々と気になるアイテムを買えるわけじゃないからゆっくりでしたけど、それが良かったのかもしれないですね。すぐにユニットを変えていたら、何がいいのかわからなかったと思います。少しずつ変わっていく音を聴けることがすごく楽しかったですね」

 その後も研究を重ね完成した「Town hall」のスピーカーシステムは、38cmダブルウーハー・エンクロージャーの「4508」に16Ωの「2220B」を合わせ、ドライバーの「2445J」とホーンレンズの「2395」、ツイーターの「075」を採用した構成だ。音への探究心が旺盛な金野氏は常に次を見据えているが、ようやく納得できる音をつくりあげることができたという。

 そんな矢先の出来事だった。2011年3月11日、ずっしりとしたスピーカーシステムをもなぎ倒す、大きな揺れが「Town hall」を襲った。

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【上】フロアに落ちて曲がったホーンレンズのフィンは金野氏が修復。当時を物語る痛々しい傷跡が残っている。【中】バーボンやシングルモルトなど、ジャズに合う銘酒を豊富に取り揃えている。【下】左右のスピーカーの中央にあたる位置が音を楽しみたい人にとっての特等席。「一人でもご遠慮なくお座りください」とのことだ。

奇跡的に大きな被害を免れ
震災の5ヵ月後に再開を果たす。

 わずか20cm。ビルの二階に入る「Town hall」は、階段があと一段少なかったらというところで津波による浸水被害を免れた。ただ、地震の大きな揺れが店内のあらゆる物を破壊していた。

「食器類は全部落ちましたし、エアコンも照明もすべて取り替えました。CDも滑り落ちて、使い物にならなくなっていました」

 試行錯誤の末に完成したスピーカーシステムも崩れ落ちた。スピーカーボックスは倒れ、ホーンレンズやドライバーはフロアに投げ出された。しかし金野氏はここでも奇跡を目の当たりにする。

「台座のレンガが揺られて崩れたことで、スピーカーが後ろに倒れたんです。前に倒れていたら、ウーハーもダメになっていたでしょうね。レコードが一枚も落ちなかったことも救いでした」

 そのため「Town hall」は比較的早く再開に向かうことができた。JBLを展開するハーマンインターナショナルからも、破損したドライバーのスピーカーターミナルや吸音材の無償提供のサポートがあった。他の機器に大きな異常がなかったこともあり、夏には震災前のサウンドを取り戻すことができた。

「あれだけの揺れがあって店の中もぐちゃぐちゃになったのに、直せる範囲の破損だけで済んだんだからJBLは丈夫ですよね。下手に触ったりしなければ、壊れることはないと思います。オーバーホールなどは必要になってくるかもしれないけど、きっと一生使っていけますよ」

 だから金野氏は、これからも現在のスピーカーシステムを大きく変えるつもりはないという。店の奥には、いまも金野氏が時間をかけてつくりあげたスピーカーシステムが鎮座している。「Town hall」のスピーカーからは、今夜もあの頃と同じ上質なジャズが流れている。