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JBLが聴ける店・Sound of JBL | 新宿 JazzBarサムライ

JBLが聴ける店・Sound of JBL

新宿

JazzBarサムライ

ジャズと猫の不思議な関係!?
「Olympus」と「招き猫」の
相乗効果に幻惑される。

JBLが聴ける店・JazzBarサムライ

アングラ文化が息づく唯一無二のジャズバー。

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【上】「Olympus」の中央、神棚ならぬ招き猫棚の中央には 注連縄(しめなわ)が。奥には儒教のお札が祀られている。【中・下】いたるところに招き猫! 外国からの観光客も多く訪れ、記念撮影のスポットにもなっている。

 音楽と文学と若者に活気があった "1970年代のアングラな東京"を彷彿とさせる場所が、新宿という街にはいくつかある。そうした店々を覗くと、すっかり忘れていたあの時の情熱がこみ上がったり、またそんな時代を知らずともいっぱしの"通"を気取れるような錯覚を覚える。
 ここ「JazzBar サムライ」もそのひとつ。雑居ビルの小さなエレベーターを昇りつめ、扉を開けると異空間が広がる。まるで詩人、萩原朔太郎の短編小説「猫町」の一節、<見れば町の街路に充満して、猫の大集団がうようよと歩いているのだ。猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫。どこを見ても猫ばかりだ。>のごとくである。しかし朔太郎が描いたのは生身の猫だが、ここでは"招き猫"が鎮座。その数およそ3,000体と壮観だ。「招猫秘宝館」という異名はダテではない。さらにこの招き猫様たち、マスターの宮崎二健さん曰くご利益目当てだけでなく、音響効果に大きな効果をもたらしていると言う。
「四方が単なる硬い壁ではキンキンの音になってしまいます。そこかしこに招き猫を置くことで、この店の表面積が格段に広くなり、音が吸収拡散されるんです。それにね、いかしたプレイをするジャズメンのことを"cat"と言うでしょ。ほら、招き猫とジャズが繋がった!(笑)」と、宮崎さん。
 宮崎さんがマスターになって今年で37年目。そもそも「サムライ」はジャズライブハウスの殿堂的存在「新宿ピット・イン」の喫茶部として開業し、その後"旧サムライ"を経て、宮崎さんが引き継ぎ、1979年5月にこの地でオープンした。ジャズバーのマスターになる以前は、一年半ほどニューヨークに滞在していたという。
「ジャズが大好きで、本場のジャズに触れたくて。でも遊んでいるわけにはいかないので、日本食のレストランで料理人として働いていました」
 そのときに手に入れたレコードは、もちろん今でも大切な宝物。数々のミュージシャンらのサインを指でなぞると、往事の息吹が聞こえてくるようだった。

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【上】天地逆に設置されたOlympus。確かに招き猫との親和性が高い。【下】かつてのサムライの写真がさり気なく飾られていた。

Olympusという
ヴィンテージがもたらす既視感。

 摩訶不思議な空間ゆえ、一見、どこにスピーカーがあるのかわからない。が、まろやかな音色が聴こえてくる方向に目をこらすと、奥のステージ上方、神棚ならぬ"招き猫棚"の両サイドに「Olympus」があった!「Olympus」と言えば、JBLの音響技術と木工技術の結晶として誕生したスピーカーシステムで、言わずと知られた名機である。
「招き猫や般若心経など、"和"というか"昭和レトロ"たっぷりのこの空間に難なく溶け込んでいるでしょ。Olympusは座敷にも合うだろうし、おそらく、尾形光琳の絵ともマッチすると思うんです(笑)」
 もちろん見た目の満足度だけではない。自宅では「LANCER101」を愛用したこともあるほどのJBLファンだが、「ジャズにはJBLが適している、それもこのOlympusが一番だね」と呟かれる。
 このOlympusはご承知の通り、かなりのヴィンテージである。が、その経年があってこそ、さらに良い音を響かせるのだと言う。そして招き猫がもたらす効果もあなどれないそうだ。
「ジャズ喫茶はね、同じレコードであっても、その店によって鳴り方、聴こえ方が異なるんです。その違いを味わうというのも愉しいですよね。うちみたいなオンボロでも、Olympusと招き猫のおかげでステレオ感が乱反射するというか、しっとりと温かくなるんですよ」
 招き猫のほかにも工夫がある。「Olympus」はフロア型のスピーカーだが、「神棚の両サイドに」と先述した通り、天井近くの高い場所にある。そのためバッフルの角度を考慮して、天地逆に設置している。また、ずいぶん前のことだが、経年でエッジ部分のモルトプレーンがボロボロになってしまったときのこと。ウーハーを外そうとしてもまったく外れず困難したそうだが、自分自身の手で直すという行為も愉しさのひとつだと言う。モルトプレーンの代用は、カメラ専門店で見つけた特殊な生地を切り抜いて使ったそうだが、「そこに至るまでの試行錯誤もたまらないんです」と宮崎さん。

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【上】次から次へと話題がつきない、マスターの宮崎さん。【中】宮崎さん愛するアブドゥーラ・イブラヒム(ダラー・ブランド)やドラマーのマックス・ローチなど、壁にはサイン入りのレコードがずらりと掲げられている。【下】ポテトフライ650円には、ウイスキーハイボール650円の爽やかさがよく合う。

ジャズを入り口に
さまざまな門戸が広がる場所。

 店の佇まいと聴こえてくる音色から、「アナログレコードをかけている!」と思い込まされるが、じつはデータ音源がほとんどで、インターネットラジオも流している。とはいえ、店にはモダンジャズから知る人ぞ知るプレイヤーまで約6000枚のレコードがあり、もちろんリクエストもOKだ。そんな宮崎さんにもっとも気に入っているプレイヤーをたずねると、
「南アフリカ・ケープタウン出身のアブドゥーラ・イブラヒムですね。人種差別や厳しい政治状況におかれても、孤高で魂を揺さぶる演奏をしています。本当にすばらしいです」
 一見、シャイな宮崎さんではあるが、こちらから話かければ、その糸口からさまざまな話題が展開する。ジャズはもとより、俳句に回文、江戸に庶民文化、武士道に生類憐みの令、仏教に儒教、神道、政治に陰謀説…と、その幅広さは天下一品。会話が進むうちに、このお店が「サムライ」という名前であることに合点が行くはずだ。
 また「JazzBar」とはいうものの、料理人修業をした宮崎さんだけに、フードメニューが充実している。断然人気なのはピザだが、
「ポテトフライもうち独特です。生のジャガイモを潰してから軽く下茹でして、低温で揚げるんです。潰すことで表面積が増え、味が染みまろやかに。ほら、これも"招き猫効果"と同じでしょ(笑)」