JBL テクノロジー解説

JBL、その名は「音」に人生を捧げた一人の天才エンジニア ジェームズ・B・ランシング のイニシャルに由来しています。
60余年にわたり世界のエンターテインメントを支えてきた JBL、そのテーマは「音と美の追求」です。

[3] なぜ SFG が開発されたのか

ダイナミック型スピーカーにとって、マグネットはその駆動力を決定付ける最も重要なパーツです。JBLでは、スピーカーユニットの磁気回路としてフェライトとネオジューム、アルニコの3種のマグネット素材を用い、それぞれの特徴を活かした磁気回路設計を行っています。

マグネット素材の変遷

JBL では創設以来、コンプレッション・ドライバーや大口径コーンユニットに用いる永久磁石の素材としてアルニコ(ALNICO)マグネットを用いて来ました。アルミニュームとニッケル、コバルトを主原料とする強力なアルニコ・マグネットは、高密度の磁束を提供することからJBLユニットのシンボル的存在でした。

しかし、1970年代後半から、このアルニコの原料であるコバルトの入手が難しくなり、その代用素材として注目されたのがフェライト・マグネットです。バリュームまたは炭化ストロンチュームとマグネタイトをベースとしたセラミック素材、フェライト・マグネットは、アルニコと比べて磁力が弱く、磁気回路が大型化します。このため磁気回路の構造にも違いが生じ、その構造の違いを原因とする歪みが発生します。この歪みを取り除くためにJBLではSFG磁気回路を開発しました。大入力により減磁作用を起こすという致命的な欠点を持つアルニコに変わり、以後JBLはプロ用を含む総てのスピーカーシステムのフェライト化を推進しました。

その後もマグネット素材の研究は続けられ、1988年には新しいマグネット素材、ネオジュームをコンプレッション・ドライバーに使用します。ネオジュームと鉄とボロンの合金(Nd-Fe-B)であるネオジューム・マグネットは、磁性素材として最強の磁力を誇ります。しかし高温に弱い弱点を持ち、発熱の大きな低音用ユニットへの使用は不可能とされていました。JBLではプロ用機のために開発された独自のボイスコイル冷却機構、ベンテッド・ギャップ・クーリング(VGC)システムを応用し、マグネットの温度上昇を食い止めることで世界で初めてこのネオジュームマグネットをウーファーユニットの磁気回路に使用することに成功、フラッグシップ機Project K2 S9500と、スタジオモニターM9500に搭載しました。

そして、2001年には再びアルニコマグネットが注目されます。JBLはアルニコマグネット特有の躍動的なサウンドを現代に呼び覚ますために、大入力時の減磁というアルニコの欠点を克服する斬新な磁気回路を完成させ、新たな世紀を担うフラッグシップ機Project K2 S9800に搭載しました。

マグネット素材の持つ特徴と使いこなし

マグネットは、素材によって様々な性質の違いがあります。スピーカーユニットの設計には、これらを理解し、その特徴を最大限に活かす磁気回路設計が重要です。

表は、それぞれのマグネット素材の主な特徴を一覧にしたものです。

マグネット素材 最大B-H積 比重 逆温度係数 磁束安定度
フェライト 2〜3MGOe 5.1g/cm2 -0.2%/℃ 高い
アルニコ 5MGOe 7.4g/cm2 -0.02%/℃ 低い
ネオジューム 35〜45MGOe 7.5g/cm2 -0.1%/℃ 高い

これらの特徴を詳しく見てみましょう。

マグネット素材による磁力の違い

マグネットは、その素材により磁力の強さが異なります。その強さは磁束密度(B)と磁界の強さを示す保持力(H)を示したB-Hカーブで表わされます。磁束密度は電気の世界でいう電流に、保持力は電圧に例えられ、これらの値から得られる最大エネルギー積(B-H max)が電力に相当する磁石のパワー値です。図はJBLがスピーカーユニット用として用いている3種のマグネット素材のB-Hカーブを示したものです。

マグネットの磁力特性

最も一般的である、フェライトマグネットの最大エネルギー積はおよそ2〜3MGOe(メガ・ガウス・エルステッド)程度であるのに対し、アルニコは約 5MGOeと約2倍の磁力を持ちます。さらにネオジュームでは35〜45MGOeと、フェライトの10倍以上、アルニコに比べても8倍の値を示します。このことは、同じ磁力を得るためにフェライトに比べてアルニコは1/2、ネオジュームはなんと1/10の質量で済むことを意味します。体積比ではさらに、フェライトに対しアルニコは1/3、ネオジュームは1/15のサイズで同等の磁力を得られるのです。

また、このB-Hカーブからもう一つの特徴がわかります。保磁力はマグネットの厚さに影響し、磁束密度は断面積に係わりを持ちます。このため、保持力が小さく、磁束密度の大きなアルニコは、直径は小さくて済みますが、厚みの厚いマグネットが必要になります。反対に、保持力が大きく、磁束密度の小さなフェライトは、薄くても直径の大きいマグネットが必要です。アルニコが内磁型磁気回路に、フェライトが外磁型磁気回路に向いていることがここからも判ります。保持力、磁束密度共に大きいネオジュームでは、直径、厚み共に小さくできます。

ネオジュームマグネットの強力な磁力を利用する事で、JBLは中高音用コンプレッション・ドライバーの磁気回路のコンパクト化に成功しました。このことがドライバーの位相特性を管理するフェーズプラグの短縮化を可能にし、歪みの低減に貢献しています。また、1″径ダイアフラムを用いた超高域用コンプレッション・ドライバー"045Be"の開発は、この小型強力なネオジュームマグネット無しには成し得なかったことでしょう。

磁束の安定性

磁気回路の動作点と磁気変調

マグネットは磁気回路内で常に一定の磁力を維持することが理想です。しかし実際には、ボイスコイルの上下動によって起こる動作点のぶれが磁気変調となって磁束を乱します。

フェライトとネオジュームはB-Hカーブが直線に近いため動作点がぶれた際に起こる磁気変調がリニアであり、またカーブが水平に近いために変調が少ない利点を持ちます。

これに対しアルニコは、B-H曲線が大きな弧を描いており、動作点のぶれによる磁気変調が大きくしかもリニアではありません。また、さらにこのぶれが大きくなるとアルニコマグネット特有の減磁領域に入り、磁力を急激に失います。

この減磁現象こそが当時JBLがアルニコ磁気回路の採用を全面的に廃止した理由です。

JBLは動作点を安定させ磁気変調を防ぐために独自のSFG磁気回路を開発しました。さらにこれに改良を加え、アルニコマグネットの動作点の変動を徹底的に抑え込む手法を考案し、致命的であったアルニコの減磁の問題と非直線性の問題を解消しました。アルニコマグネットの復活は、このような技術背景があって始めて実現されたのです。

比重

セラミック素材であるフェライトに比べ、合金であるアルニコとネオジュームは大きな比重を持ちます。しかしネオジュームはその強力な磁力ゆえサイズを小型化でき、結果として軽量でコンパクトな磁気回路が設計できます。アルニコの場合はこの比重が物を言います。低域用ユニットではこの比重の重いアルニコを内磁型磁気回路の中心部に抱き込む構造を採ることで重たいボイスコイルを駆動する際に起こる反作用を質量で吸収し、トランジェントの向上を図ることができます。逆にフェライトは比重が軽いため、他の素材に比べ重量比以上に大きな体積のマグネットを必要とします。

逆温度係数

マグネットはすべて、環境温度が上昇すると磁力が弱まる逆温度特性を持っています。中でもフェライトは逆温度係数が大きく(-0.2%/℃)、使用温度が 100°上昇すると、磁力は20%も減衰します。アルニコが最も温度安定性に優れ(-0.02%/℃)、同じ100°の温度上昇にもわずか2%の磁力減衰しか起こしません。ネオジュームはこの中間的な値(-0.1%/℃)を示しますが、温度が80℃を超えると再び温度を下げても低下した磁力が回復しなくなり、200℃を超えると全く磁力を失ってしまいます。

スピーカーの磁気回路の中では、ボイスコイルが大きな熱の発生源になります。パワーアンプから送り込まれる電力が、音に変換されてスピーカーから出力されるのは能率90dBのスピーカーでもわずか1%未満です。残りの99%のほとんどは、機械的損失や熱として浪費されるのです。このため、ボイスコイルの温度が200℃を超えることも珍しくなく、マグネットは常にこの高熱にさらされています。

JBLでは磁気回路にセンター・ベント設計やベンテッド・ギャップ・クーリング・システムなどの冷却機構を取り入れ、温度上昇を防いで磁力減衰を抑えています。これにより、熱に弱いネオジュームマグネットを発熱の大きなウーファーに使用することも可能にしています。

マグネット素材の選択

このように、マグネット素材はそれぞれに優れた面と弱点、または欠点を持ちます。JBLではこれら素材の持つ欠点を徹底的に分析し、それを克服した上でその素材の持つ優位性を引き出す工夫を行っています。単なる流行や懐古趣味的発想ではなく、素材の選択には常にその必然性があるのです。

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