JBL テクノロジー解説

JBL、その名は「音」に人生を捧げた一人の天才エンジニア ジェームズ・B・ランシング のイニシャルに由来しています。
60余年にわたり世界のエンターテインメントを支えてきた JBL、そのテーマは「音と美の追求」です。

[2] JBL SFG 磁気回路

JBLでは、スピーカーユニットの心臓部である駆動部の磁気回路に、独自のSFG(Symmetrical Field Geometry)磁気回路を採用しています。これは、ダイナミック型スピーカーの持つ歪みを激減させる効果を持つ画期的な磁気構造です。

なぜSFGが開発されたのか

JBLは、創設以来、コンプレッション・ドライバーや大口径コーンユニットのマグネットとしてアルニコ磁石を用いて来ました。これはユニットに高密度の磁束と低歪みをもたらし、JBLユニットの優れた特徴の一つとして捕らえられて来ました。

しかし、70年代後半になると、アルミとニッケル、コバルトの合金であるアルニコ(ALNICO)マグネットの重要な構成素材であるコバルトの産出が激減し、さらに軍事用としての需要拡大などから入手が困難になります。スピーカー製造メーカーの多くが安価で入手の容易なフェライト磁石に仕様変更していく中、JBLはその性能と音質を維持する必要から、最後までこの流れに抗してアルニコを支持し続けました。

しかしその一方で、JBLは30年以上に渡り磁気回路を素材面のみならず構造面からも様々に研究して来ました。そしてアルニコ磁気回路の持つ優位点の研究からついにフェライト磁気回路の持つ弱点を突き止め、構造面からその弱点を解決し、逆にフェライト素材の優位点を最大限に活用する方法を編み出したのです。それがSFG磁気回路です。この、従来のフェライト磁気回路のみならずアルニコ磁気回路をも上回る低歪み磁気回路の開発を契機に、JBLはその後の総てのユニットにこのSFG磁気回路を搭載して行きます。そして、今やSFG磁気回路はJBLの高性能ユニットにとって必要不可欠な技術要素となっています。

コーン型スピーカーユニットの基本構造

コーン紙の形状は主に指向性と高域特性に深く関わってきます。JBLのコーンは以下に大別されます。

JBL ウーファーユニット構造図

図はJBLの代表的ウーファーユニット2225Hのカット図です。色の着いた部分がSFG磁気回路の構成部品です。センターポールピース全体の形(太実線)がアルファベットの"T"の形に似ていることから、T型ポールピースと呼ばれています。

非対称磁界の改善

次に、アルニコマグネットを用いた磁気回路と、一般的なフェライト磁気回路、そしてSFG磁気回路の構造を比較してみます。
図は、それぞれの磁気構造の断面を左半分だけ表示したものです。

磁気回路と形成磁界の違い

アルニコ磁気回路は、アルニコマグネットの強力な磁力を利用して、コンパクトなマグネットを磁気回路の中心部に抱き込んだ内磁型と呼ばれる構造をとっていました。そしてこのマグネットの上にトッププレートと厚さの等しいポールピースを乗せ、ギャップ部に磁界を形成します。プレートとポールピースの厚みが等しいため、ギャップ部には点線の通り上下対称形の磁界が形成されます。

これに対し、フェライト磁気回路では、フェライトマグネット自身の磁力が弱いため、十分な磁力を持つマグネットを磁気回路内に納めることができず、大きな直径のドーナツ型のリングマグネットを外周部に持った外磁型と呼ばれる構造が必要です。この時、一般的なフェライト磁気回路では、ギャップ形成に必要な直径を持つ、単純な円柱形のポールピースを用いていました。しかし、この磁気構造では、トッププレートとポールピースの厚さが異なり、ギャップ部の磁界は下側だけ磁束の集中を欠いた上下非対称の磁界を形成します。この非対称性がボイスコイル、ひいてはコーン紙の上下(プッシュプル)動作の非対称性を生み出し、特に振幅の激しい100Hz以下の周波数において大量の二次高調波歪みを発生させます。この歪みこそが永年フェライトマグネットを用いた磁気回路の欠点として指摘されて来た、低音の明瞭さを損なう元凶だったのです。

SFG磁気回路では、同じ外磁型の磁気構造を採りながらも、"T"型のポールピースを装着することにより、ギャップ部の厚みを揃え、上下対称の磁界を形成させることに成功しました。

磁気変調歪みの改善

フェライト磁気回路の研究において、歪みの増加につながるもう一つの現象が確認されました。それは、磁気回路が形成する直流磁界と、この磁界内を上下運動するボイスコイルの発生する交流磁界との間に起こる、一種の相互干渉に起因する歪みです。これはアルニコ磁気回路においても生じますが、アルニコ磁気回路の場合はポールピース直下に透磁率の低いマグネット素材があるため、この相互作用は小さく、歪みも低レベルになります。しかし、フェライト磁気回路ではここに透磁率の高い鉄素材があるため、この相互作用による磁気変調が大きな歪みとなって表れるのです。この歪みは100Hzから1kHzの帯域において、 5dB〜10dB程もアルニコ磁気回路よりも大きくなります。主に中低域の透明さや明快さを損ない、濁った暗い音質となって表れるため、JBLスピーカーとしての特質を損なう、フェライト磁気回路特有の歪みとして見過ごせません。

しかしJBLでは、すでに30年以上も前に、LE8Tというフルレンジユニットの設計の際に同様の問題に対する対策を試みていました。これは、ショートリング、またはファラデーループと呼ばれる導電性のリングを磁気回路内に設置することで磁気変調エネルギーを電流に変換し、電気的にショートさせることで吸収してしまう手法です。JBLはエネルギー不滅の法則を利用したこの巧みな構造によって磁気変調歪みを一般的なフェライト磁気回路よりも大幅に低減し、さらにはアルニコ磁気回路をも上回る超低歪み特性を獲得しました。

磁気変調歪みの改善

SFG磁気回路の歪み低減効果

図はJBLの代表的な12″(30cm)径ウーファーユニット「128H」の振動系を用いて、磁気回路のみ入れ換えて測定した周波数特性と二次高調波歪みの周波数分布図です。歪み特性は周波数特性との比較を容易にするため、20dB大きく表示されています。また、歪みの測定を容易にするためユニットへの入力を10Wまで上げて測定しています。

SFG磁気回路の歪み低減効果

アルニコ磁気回路では中低域の歪みが基本周波数特性に対し40dB以上確保されています。これは歪み率にして1%以下に相当し、良好な特性であることを示します。

一般的なフェライト磁気回路ではこの中低域での歪みの増加が顕著で、基本特性との差はおよそ35dBまで低下しています。これは約2%の歪み率に相当します。

これに対しSFG磁気回路では、歪みがスケールの外まで落ち込み、基本特性との差は50dB以上におよびます。一般的なフェライト磁気回路に比べ 15dB、アルニコ磁気回路に比べても10dB以上の改善が図られています。この時の歪み率は実に約0.3%以下となり、同口径のコーン型ユニットとしては驚異的な低歪みとなります。

その他の改良点

SFG磁気回路では歪の低減以外にも、磁気構造にまつわる様々な問題に取り組み、これらを改善することでユニットの性能をさらに高いレベルへ昇華させています。

磁気回路の熱対策

フェライトマグネットはアルニコマグネットに比べ、逆温度係数が大きく温度上昇に伴う磁力低下が大きい素材です。一般的なフェライト磁気回路ではバックプレートに打抜き加工による鋼鉄板を用いていますが、JBLではここに質量の大きな鋳造金属プレートを用いました。これは磁気回路のヒートシンクの役割を持ち、フェライトマグネットの磁力低下を防いでいます。さらにJBLでは、センタードーム内の圧力上昇による周波数特性のゆがみを防ぐため、センターポールピース中央を貫通する大きな通気孔を設けています。この通気孔がクーリングベントとしての役割も担い、ボイスコイルとマグネットの冷却効果を上げています。これにより、一般的な使用環境ではもちろん、コンサートPAなどの過酷な使用環境でさえも、JBLスピーカーは磁力低下による出力の低下をほとんど起こしません。

センターベントのクーリング効果
センターベントのクーリング効果

さらに近年では、3つの通気孔を設け、コーンとボイスコイルの上下運動を利用して強制的に冷却風を招き入れ、ボイスコイルを直接冷却するベンテッド・ギャップ・クーリング(Vented Gap Cooling)システムを開発し、ボイスコイルの温度上昇に伴うパワーコンプレッションを防ぐとともに、マグネットの温度上昇による磁力低下を防いでいます。

VGCシステムのクーリング効果
VGCシステムのクーリング効果

磁気回路の高効率化

SFG磁気回路に用いられる鋳鉄製バックプレートは、一般の鉄板打抜きバックプレートでは得られない複雑な造形を持っています。これはボイスコイルボビンの底当たり(ボトミング)を防ぎ振幅の拡大を図るとともに、マグネットの磁力を効率的にポールピースに導き、ギャップ部への磁力集中を図るためにデザインされたものです。近年ではここにコンピューターによる有限要素解析技術を取り入れ、その独自のフォルムによって同じマグネットでより高い磁束密度をギャップに提供することを可能とし、能率の改善を果たしています。

SFG磁気回路の応用

JBLのSFG磁気回路とは、上下対称磁界を造り出すためのT型ポールや、磁気変調歪みを取り除くためのショートリングなど、個々の技術を指すものではなく、これら歪み低減のために用いられた様々な技術要素を統合した総称です。その技術はたゆまぬ研究により、今日もなお進化を続けています。

その後の研究でSFG磁気回路はフェライト磁気回路以外にも、最強の磁力を誇るネオジュームやアルニコ磁気回路にさえも歪み低減に効果があることが確認されました。現在はこれらのマグネットを用いた磁気回路にも応用され、素材の持ち味を引き出しながらさらなる低歪み化を実現させています。

JBLのフラッグシップ機Project K2 S9800のために開発されたアルニコ・ウーファーユニット1500ALには、アルニコの持つ大出力時の減磁作用を防ぐための大型アルミショートリングや銅/スチール積層インナーギャップ・リングなど、アルニコの弱点を徹底的に排除し、その特徴を存分に発揮させるために最新設計のSFG磁気回路を搭載しています。

  • SFG磁気回路を搭載したアルニコ・ウーファー 1500AL
    SFG磁気回路を搭載したアルニコ・ウーファー 1500AL
  • SFG磁気回路を搭載したアルニコ・ウーファー 1500AL


※図の色の着いた部分がSFG磁気回路の構成パーツです。

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